藻類が日本を産油国にする

石油代替エネルギーとして近年クローズアップされているのが“藻類”である。
筑波大学生命環境系の渡邉信教授によると、藻類の中には1ミリにも満たない小さな体に、石油の代替燃料を効率よく生み出す力が備わっているものがあるという。
単位面積あたりで生産できるエネルギー量は、同じバイオ燃料のトウモロコシの数百倍にもなる。しかも、トウモロコシの燃料利用は穀物価格の高騰につながったり作物の耕作面積を奪うため、近年世界的な問題になっているが、藻類は食用にはほぼ無縁のためそうした心配がない。渡邉教授が打ち出している大規模な藻類エネルギー生産構想では、ボトリオコッカスとオーランチオキトリウムという2つの藻類が主役となる。

ボトリオコッカスは太陽の光を受けて光合成をし、“炭化水素”という石油に近いバイオ燃料を生み出す。
藻類研究者として渡邉教授は長年ボトリオコッカスに着目し、北は北海道から南は沖縄まで日本中で200種類もの藻を採集して燃料生産に最も適するものを絞り込んできた。
しかし、光合成で増殖するボトリオコッカスを日本で育てて大量の炭化水素を得るには地域的ハンデがある。「日本の日照時間は短く、東南アジアやオーストラリア西部など海外の適地の半分ほど。気温も、平均15℃以下の月が東北では8ヵ月、九州でも4ヵ月もあります。それが大きなハンデとなっています」。そこで、渡邉教授は、もうひとつの新しい藻類に活躍してもらおうとしている。
それこそが2009年に渡邉教授が沖縄で発見し、今や“夢の藻”とも称されているオーランチオキトリウムだ。多くの藻類が乾燥重量あたりつくる炭化水素は1%未満であるなか、オーランチオキトリウムは炭化水素を20%もつくる。増殖のスピードも格段に速い。ボトリオコッカスが約6日で2倍に増殖するのに対し、オーランチオキトリウムは、わずか4時間で2倍になる。オイル生産効率はボトリオコッカスの12倍にもなる。
「オーランチオキトリウムは、光がなくても有機物を“餌”にして増殖する従属栄養性藻類です。餌を常に与える必要がありますが、光合成を必要としないので、タンクの中で24時間培養することができます。日照時間が短く、狭い国土の日本にうってつけの藻類です」オーランチオキトリウムのもつ可能性に期待する渡邉教授は2011年、マツダとの共同実験で、この藻類から精製した油を軽油に70%混ぜ、ディーゼル車を走らせることにも成功している。実用化に向けて世界の最先端を走っている米国でさえ、混合率は50%を目指している中での快挙であった。将来は100%も夢ではないという。いかにエネルギーを生み出すためのコストを減らし、無駄のない効率的なシステムにするか。そこで渡邉教授が打ち出した構想が、このボトリオコッカスとオーランチオキトリウムの2種類の藻類を複合的に活用するハイブリッド・システムだ。互いの長所と短所を補完し合う、その徹底ぶりがすごい。人間の生活廃水には有機物が豊富に含まれる。その有機廃水を処理した一次処理水をオーランチオキトリウムの“餌”とする。下水汚泥や食品工場の廃液など有機物を含む廃棄物なら、ほとんどオーランチオキトリウムの餌になるという。これでまず、オーランチオキトリウムから炭化水素を得ることができる。次に、その先の二次処理水には生活廃水中の窒素やリンなどが残されるので、今度はこれを屋外でボトリオコッカスの培養に活用し、ここでまた炭化水素を得る。これで窒素やリンが原因で起きるプランクトンの異常発生も防げる。さらに、オーランチオキトリウムとボトリオコッカスそれぞれから炭化水素を得たあとにできる残渣を、家畜の飼料やメタン発酵のための材料に利用。あるいは可溶化してオーランチオキトリウムの餌として利用する。このとき残渣を燃やすことになるが、出てくる二酸化炭素をボトリオコッカスの光合成に活用し、熱もオーランチオキトリウムのタンクを温めるのに活用する。渡邉教授らが構想するこのシステムの一部を取り入れた実証実験は、国内ですでに行われている。筑波大学のあるつくば市では「つくば国際戦略総合特区」の試みとして、2012年度より、藻類の屋外大量培養技術の確立に向けた実証実験が進められている。また、渡邉教授の故郷、宮城県丸森町に近い仙台市の南蒲生浄化センターでは、2013年5月から筑波大学、東北大学、仙台市の共同で、オーランチオキトリウムから炭化水素を得るための「藻類バイオマス実証実験」が始まった。このハイブリッド・システムを耕作放棄地などで利活用して藻を増殖すれば、将来日本が産油国となることも理論上は可能となる。有機物や窒素・リン等藻類の栄養となる資源の賦存量が十分あると仮定すると、日本の休耕田のわずか5%、琵琶湖の3分の1の広さがあれば、日本の年間エネルギー輸入量を賄うことができるという。そして何よりこの藻類バイオエネルギーの大きなメリットは、石油代替エネルギーであるので、既存の石油インフラがそのまま使用できることだ。水素ステーションなどをわざわざ造らなくてすむし、プラスチックなど石油製品ももちろん生産できる。

text:漆原次郎

藻類バイオマス

ベトナムの沿岸地域では近年、海藻の養殖業が急速に発達しており、その事業者にとっての大きな収入源となるだけではなく、地元の海洋環境も改善されている。 その中でも特にウミブドウが日本やヨーロッパへ輸出されており、乾燥させることで、生のものに比べ、3倍の価格がついている。海藻の養殖業は、洪水や嵐のような自然災害に対し、他の海産物よりも耐性があるため、容易に生産できる他、養殖地域の浄化にも役に立つとされている。

 同事業に関わるベトナム企業の社長は、海藻産業の環境への効果を研究するよう、政府に要請すると共に、より多くの輸出市場を見つけていきたい考えだ。

藻類産業創成コンソーシアム

バイオマス(biomass=生物 bio + 物質の量 mass)とは、元来は「生物現存量」を意味します。生体活動に伴って生成するもの、または生態学の分野で植物、微生物体の有機物を物量換算した量を表わす言葉でしたが、石油ショック以降は「エネルギー源としての生物資源」の意味を含むようになりました。近年の原油価格の高騰や地球温暖化への意識の高まり、また原子力発電所事故に起因する脱原発の動きから、新たな再生可能エネルギーとして、微細藻類が産生するオイルなどの「藻類バイオマス」の活用に注目が集まっています。

 微細藻類は、一般的には水中に存在する顕微鏡サイズの藻で、その多くは植物と同様に太陽光を利用し、二酸化炭素を固定して炭水化物を合成する光合成を行い、代謝産物としてオイルを産生します。微細藻類によるバイオ燃料は、植物由来のバイオ燃料に比べて、桁違いに生産効率が高く、またトウモロコシなどのように食品利用との競合もないため、次世代バイオ燃料として大変注目されています。今後、大量培養技術が確立されれば、日本を産油国にすることも夢ではありません。

食べられる海藻由来の包装紙

インドネシアの企業が、既存のプラスチック製品に置き換えて使える、海藻由来の包装紙「Seaweed-Based Packaging(そのまんま海藻由来の包装紙)」を開発したのだそう。

・100%海藻由来の紙のような新素材で印刷に対応し、熱で溶着すれば、食品向けのパッケージとして使用可能・そのまま食べることもでき、食物繊維・ビタミン・ミネラルを豊富に含むため、健康にも環境にもやさしい・アレルゲン物質を含まず、グルテンフリーで完全植物性のため、ベジタリアンの人でも食べられる・原料となる海藻は、年間を通して45日サイクルで収穫できる・1ヘクタールの海洋スペースで年間40トンの乾燥海藻を生産可能で、この生産量あたり20.7トンの温室効果ガスを吸収してくれる・海藻の需要が伸びれば、収入や雇用の少ない発展途上国などでは、生計を立てるための雇用も創出する・海藻はキレイな海洋環境でしか育たないため、海藻農家が増加すれば、海洋環境の維持につながる・そのままお湯に溶かせるティーバッグや、インスタントラーメンの調味料パック、ハンバーガーごと食べられる包装紙などを完成しており、包装紙以外にも使い捨てのコップが開発されており、飲み物を飲んだ後はそのままコップを食べられる

 

海藻から生まれた代替プラスチック

今、世界中で問題となっている海洋プラスチックごみ問題。

プラスチックは自然環境で分解しないため、海を漂い、ミリ単位の細かい粒のマイクロプラスチックになって、魚介類を通して私たちの体にも取り込まれてしまうのです。

インドネシアではこの問題を解決へ導くかもしれない、自然に優しい包装資材が開発されました。実は、インドネシアは世界で2番目に多く、海へプラスチックごみを廃棄している国です。(1番目は中国)プラスチックごみの90%が海へ流出していて、そのごみの70%が飲食物のパッケージといわれています。そんなインドネシアの Evoware 社は、既存のプラスチック製パッケージの代替えとして使える、海藻でできた包装材「Seaweed-Based Packaging」を開発しました。

「Seaweed-Based Packaging」は100%海藻由来の紙のような新素材で、印刷もすることができ、熱での溶着も可能です。お湯に溶ける性質を利用して、インスタントラーメンの調味料パック、ハンバーガーを包んだまま食べられる包装紙などへの利用が考えられています。

一緒に食べてしまうの⁉︎と驚きの声が上がりそうですが、ご安心ください。ほとんど無味無臭で、食物繊維・ビタミン・ミネラルを多く含んでいるので健康にもいいんだそう。しかもHACCP規格に準拠したハラール認証を受けている上、グルテンフリー。世界中の様々な環境で利用できる条件が揃っています。もちろん食べ物以外の梱包も可能で、廃棄した場合も肥料として土に返り、ごみにはならないつくりになっています。

原料となる海藻は、年間を通して45日サイクルで収穫でき、これは他のバイオ素材よりも簡単かつ早いペースで資源を確保できることになります。1ヘクタールの海洋スペースで年間40トンの乾燥海藻を生産可能で、同時に20.7トンの温室効果ガスを海藻が吸収するため、環境の改善にもつながります。

インドネシアの海藻農家は、大量の海藻があるにも関わらず需要がない状況で、最貧困に位置しています。包装紙の原料として海藻の需要が伸びれば、収入の増加や雇用の創出に繋がり、海藻農家を守ることにもなると Evoware は考えています。すなわち、SDGsの17の目標のうちの「貧困をなくそう」「作る責任、使う責任」「海の豊かさを守ろう」といったことにも配慮されているわけです。

ストロー廃止の動きやレジ袋の有料化など、日本でも身近な所でプラスチックごみへの対策が進んでいます。1人1人が課題意識を持ち、実際に取り組んでいくことで、持続可能な社会は築いていけると思います。


(エコイスト編集部)

ブルネイ

富裕国ブルネイの水上住宅

首都の中心を流れるブルネイ川には水上住宅が立ち並ぶ。

川底に柱を打ち込み、そのうえに木やコンクリート製の家屋を建てる工法だ。

 

水面の上には約40の集落があり、人口3万人を超える。1970年代のピーク時には6万人が住んでいた。今ブルネイの人口は40万人。国民の10人に一人は水上に暮らす計算だ。人々がカンポン・アィールに住みはじめたのは1000年以上前といわれている。「陸の上に住むなんて考えられない。水上は涼しいしのんびりしている。」政府は水上住宅の復興を始めた。(朝日新聞 夕刊 7月21日)